インタビュー: 角本 幹夫先生

病院薬剤師をされていた時にトロント小児病院の臨床薬理部で研究員をされた経験をお持ちで、薬学部が独自留学プログラムを開発する道を作ってくださいました。今回はプログラムに込めた思いや、先生自身のトロント時代のお話を伺いました。(2020年2月)

四年目を迎えた薬学部独自留学プログラム

―TCTP(Toronto Clinical Training Program)が四年目を迎えましたね。

はい、そして今回が新カリキュラムで動き出す年になります。第一回目、第二回目、第三回目を経て、どういう形でやっていけば良いのかがわかってきました。近藤先生も向こうで色々としてくださり、こちらが最初に要望してた内容が組み込まれたプログラムができたと思います。そして、まだまだこれからも良いものに変わってくるかと思います。

―(SickKids, トロント大学薬学部が)こちらの要望も考慮してくださって、一緒に良いものを作り出しているという感じがありますね。

学生がトロントで多くのものを吸収できるようなプログラムになっています。トロントの先生方が非常に協力的ですね。

―2016度のハーフスケールでの派遣には、角本先生も引率されました。あの時はどういう印象でしたか?

プログラムを作ってすぐにフルスケールではできないので、前段階での準備としてハーフスケールで実施しました。実際に行って見ましたが、こちらが要望していた内容を一週間という期間で用意してもらえていたので、安心しました。

トロント大学薬学部棟より街を眺める(左から角本先生、Sandra先生、服部先生)

角本先生のトロントSickKidsでの研究員生活

―角本先生は、元々研究員としてSickKids(トロント小児病院)におられたのですよね?

私はSickKidsの薬剤部ではなく臨床薬理におりまして、今もお世話になっている伊藤真也先生のところで約半年間、研究をメインに行なっていました。そして、日本に帰る前に薬剤部を見せていただきました。2007年のことです。

―日本では病院薬剤師をされていましたが、どのようなきっかけでSickKidsに行かれたのですか?

当時、日本病院薬剤師会が海外派遣事業を行っていて、私が勤めていた職場で派遣する人材を探していたんです。行き先は自分で探さなければならなかったので、職場で同じ事業に参加した先輩、大学院時代にお世話になった先生、大学の後輩に色々と訊きながら、伊藤先生のラボに連絡を取りました。すぐに「来ていいですよ」と返事をいただきました。

2007年の角本先生(右)と伊藤先生(左) SickKidsにて

―角本先生のトロントでの一番の成果や一番大きな経験は何でしたか?

向こうで過ごしたのは半年だったので、成果的にはそれほど大きなものは得られなかったですが、研究を色々見せていただいたのが一番大きな経験だったと思います。

世界的に有名な病院で実習ができるプログラム

―2010年から立命館大学薬学部に来られました。それから留学プログラムの立ち上げはどのようにされましたか?

薬学部独自の留学プログラムがまだないということでしたので、ならば作ったらどうかと、私の方から提案させていただきました。やはり何らかのコネクションが無いとすぐには作れないので、恩師の伊藤先生に相談させていただきました。

病院と薬学部をつなぐ形で、やはり向こうの薬剤師がどういうことをしているのかを学生に見てもらいたかったので、どちらかというと臨床に近いことが学べるプログラムを提供できればと思いました。

トロント大学薬学部の教室

―この立命館大学薬学部の独自留学プログラム、TCTPのアピールポイントは何ですか?

このプログラムのポイントは、SickKidsとトロント大学の両方で研修を受ける点です。世界的にも有名な病院で実習ができる点はアピールポイントであり、誇れるところだと思います。

―SickKidsでの「病棟体験」は特に好評ですね。

そうですね、それが一番見てもらいたいところです。そのために、時期的にはしんどいのですが、病院と薬局で実務実習を終えた5回生が、その経験をもとに参加するという形にしています。Advanced科目の中の一つになっています。

トロント大学薬学部の実習室

―Advanced科目が色々ある中で、角本先生はこの科目にどのような思いを込められていますか?

私が感じてほしいことの一つは、薬剤師の責任の範囲はカナダの方が広いですが、日本とカナダの薬剤師のやっていることに大きな差はないということです。日本の薬剤師から見ると、北米の方が進んでいるというイメージがあるかもしれませんが、実際にやっていることは同じなのだと。その上で、何らかの刺激を受けてもらえればいいなと思っています。

向こうに行くとわかると思いますが、医者で留学をしている人は多いですが、研究者を除き、薬剤師で留学している人はまだあまりいません。行けるうちに行って、見て来てもらいたいと思います。

学生へのメッセージ

―それでは最後に、伝え忘れたことがあれば教えてください。

私がこのプログラムを作ろうと思ったきっかけは、薬学部独自の留学プログラムがなかったことに加え、立命館の低回生での英語教育がしっかりとしているということもあったのです。しっかり学んでも、その先に、学んだことが実際にどう役に立つのかが多分学生にはわからないですよね。せっかく低回生で良いプログラムで英語を学んだのに、それを発揮する場面がないのはかわいそうだなという思いがありました。それだけしっかりと学んでいれば海外でも力を発揮できるので、実際に学んだものを活かす場面を提供できるのではと思いました。

私も実際に感じたことなのですが、「向こうの薬剤師とやっていることはほとんど同じだけれど、何か違う」といった日本にいるだけではわからないものを感じて、日本にとどまらず、世界で活躍して頑張ってほしいと思います。

―もうすぐ今年度の6名が出発しますが、メッセージはありますか?

本当にいい機会だと思うので、多くのものを吸収して帰ってきてほしいと思います。また、代表という言い方は変かもしれませんが、行って学んだことを自分だけのものにするのではなく、他の学生にもその経験を分けてもらえればと思います。

―本日はありがとうございました。